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ホテルに隣接して建つ、経営者のための小さな2世帯住宅である。この建物だけで、住宅としての最小限の設備と動線とを一通り備えているが、特に、職住隣接で生活する経営者のために、1階と2階両方でホテル棟のサービス部門と連動して使いやすいような全体構成となっている。
1階には、高齢者のための居間、寝室、浴室、トイレ、洗面室を設け、床面を段差のないバリアフリーとした。車で訪れる来客のアクセスが容易なこと、ホテルの従業員が往き来するサービススペースと居間を隣接させることで、従業員が室内の気配を把握しやすいことなどに配慮しながら、全体の平面や開口の形状をコンパクトにまとめた。2階には、夫婦が生活するためのトイレとミニキッチンを備えた居間兼寝室があり、同じ階で隣接するホテルの厨房へブリッジを通って容易に往来できるようになっている。
この建物はホテルの駐車場に隣接して建つため、建物の安全性、防火性、セキュリティ、法規上の制約などを考慮し、構造を鉄筋コンクリート造とした。立地上、採光や通風、外部への空間的な抜けが南東方向に限定されているため、その方向に対して最大の採光、通風効果が得られるように、コーナー部分を廻りながらに水平に連続する開口を設けた。また、コンクリートの外壁面が、単調な印象や圧迫感を与えないように、YKK黒部寮でも使用したオランダ製のドット模様の凹凸プラスチックシートを型枠に貼り付けてコンクリートを打設する工法を採用し、打ち上がったコンクリートの表面をローラーで濃紺色や白色に塗装する仕上げとした。この方法によって、コンクリートの外壁面上に、表面の塗装色面とコンクリート色がそのまま残る凹部面の2つのレイヤーがつくられる。その組み合わせが、延岡の力強い陽射しを受けて、陰影の変化を伴った織物のような繊細な表情を、建物の外観に生みだすことを期待した。
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