YKK kurobe dormitory
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YKK黒部寮
YKK社員のためのこの寮は、主に田園風景が広がる富山県の小都市、黒部市の中心近くにある。水田とばらまかれたように配置された建物に囲まれながら、 この建物はYKKの工場複合施設と向かい合って建ち、将来まちの中心とつながる計画道路のためのコーナーストーンを形づくっている。 建物は、ワンルームアパートメントとしてのすべての設備がととのった、約100室の住居ユニットによって成り立っている。 また、レストランとライブラリーを含む共用施設も設けられている。建物は、いくつかの建物ユニットに分割されながら、 可能な限り最も透明な方法で結合されている。建物が、全体として過度にマッシブになってしまうことや、 人工照明だけに照らされた非個性的な廊下に沿って非個性的なドアの列がつづく、顔のないホテルのように見えてしまうことを避けたいと考えた。 この理由から、居住エリアは6つの独立した建物ユニット、すなわちタワー状のブロックに分割され、歩行用ブリッジによって結ばれている。 ブリッジを渡る人は、その両側の眺めにより、まるで外の世界を歩いて渡るような感覚で身近に外部と向かい合うことができる。 このような景色の見え隠れによって、廊下にストリート的な性格が与えられている。 これら6つの独立した建物ユニットは、鉛直方向に組織された、単独に建つ”住宅群”ではない。 このような分節にもかかわらず、全体はひとつに組織されたものとなっている。 すなわち、全体は各フロアに分割されているだけであり、それらのフロアはエレベーターと3つの階段によって連結されているのである。 居住部分には、共用の日本式浴室、洗濯室、ルーフテラスも設けられている。すべての個室が、就寝のためのバルコニーであるメザニンレベルをもち、 そのために天井が通常以上に高い。この高さの印象は、鉛直方向にアレンジされたファサードによってさらに強調されている。 就寝のためのバルコニーを含めた全体の床面積が、一般のこのような部屋に比べて原則的に大きくないにもかかわらず、 通常の階高のスケール感を破ったことによって、空間的な自由度を増す効果がもたらされている。 2つの分離した生活エリアをもつことで、個性的なチョイスを行うことが可能になり、そこに住む人は、 最小限ながらも個性的な生活環境を創造することが容易な、完結した住宅をもったように感じることができる。 居住エリアと平行して、レストランが長くのびたガーデン、テラスゾーンと共に配置され、その裏側には機械設備を入れたサービスブロックがある。 レストランゾーンは、その一方に水田とその向こう側の山裾への眺望を開き、 居住エリアとサービスブロックの間にかかるブリッジを形づくっているかのようである。 すべての方向に大部分が開放されたこのゾーンでは、多様な活動を行うことができ、祭典、コンサート、 レセプションなどの公的なイベントにも適している。そのほかには、よりプライベートなミーティングのためのスペース、ライブラリー、 和室なども設けられている。 このプロジェクトは、ソーラーエネルギーを適用した実験的なプロジェクトでもあった。 このために、建物の日が多く当たる側のサンシールドには、ソーラーセルが取り付けられている。 これらのエレメントをランダムに建物に取り付けるのではなく、太陽光を最も遮蔽したい場所に設置することが、より賢明と思われた。 この太陽光を最も遮蔽したい部分において、太陽光のエネルギーを室内照明の一部に当てる電気に変換するのである。

ヘルマン ヘルツベルハー
訳:小澤 丈夫


黒部市の「まちづくり」とYKK黒部寮

JR黒部駅周辺は、もともとのまちの中心街ではなく、これからの発展が期待される新興地域である。 YKK黒部寮の設計にあたっては、当初から「まちづくり」の起爆剤となるような建物が求められていた。 建物全体のボリュームを、このようにいくつもの棟に分割した理由のひとつには、「まちなみ」への関心がある。 すなわち、ひとつのボリュームにまとめられた威圧感のある建物をつくるより、 ヒューマンスケールをもったボリュームの集合体として全体を構成する方が適当と思われた。 さらに、分割した棟と棟の間から、寮の共用部、花壇、池、空などのさまざまな風景が見え隠れする楽しさを、 外部に対して演出したいと考えた。そのために、外構には塀や目隠などを設けず、できるだけ外部に対してオープンにした。 前面道路側の敷地の一部は、緑地や池に面する一般歩道として提供されている。このような個性的な空間が通りに沿って広がっていけば、 そこに黒部の新たな「まちなみ」が見えてくるのではないかと考えている。

小澤 丈夫
©2003 TEO architects