YKK kurobe horikiri dormitory
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YKK黒部堀切寮
つつむ/ひらく


黒部市の中心部に近い平坦な田園風景の中に建つ社員寮である。若い独身社員の居住を対象としており、当分の間は女子寮として使用される。全60室の個室には、専用のトイレ、シャワーユニット、洗面台が備えられ、共用施設として、レストラン、セルフキッチン、浴室、ランドリー、屋上テラス、ライブラリーなどが設けられている。

変化の激しい北陸の気候、女子寮に要求されるセキュリティ、コスト的制約など、設計スタート時にクライアントより提示された諸条件は、クローズされた建物をつくる方向性を示唆していた。当初我々は、それがこれからの寮の形態を考えるときに、向かうべき方向であるかどうか確信を持てずにいた。しかしながら、あえてそれらに抗するのではなく、すべてを受け入れた状態から何ができるのかを考えることにした。

まず、長細い形状の建物全体を、両面を白と黒に塗り分けた一枚の面で巻いたモデルをつくった。我々がプレートとよぶ、屋根、床、壁、天井を取り込んだ大きなスケールの面によって建物を覆う、クローズしたイメージである。次に外部環境との関係、内部共用部の性格づけ、動線などを検討しながら、いくつかの思考錯誤を経た結果、プレートの一部分にカットを入れ、反転しながら逆側に折り返す操作を加えた。このとき、包みながら開くといった両義的な操作が並行して成立していることに気がついた。当初から気になっていた矛盾感とジレンマが、ここで一気に解消され、逆にモチベーションへと転化した。同時に、これまで建物を単に包んでいただけの単調なプレートが、内外の空間を連続させるような新しいランドスケープをかたちづくっていることに気がついた。屋根、床、壁、天井といった建築の諸要素を連続的、抽象的に再編成することによって、建築を新たな次元のランドスケープへシフトできることの可能性が見えてきたのである。

全体ヴォリュームを全長81.6m、幅16.2m、高さ7m余とし、敷地のほぼ中央に南北方向に配置した。西側では、個室群を一直線上に並べ、全体をプレートによって包み込んだ。一方、共用機能が配置された東側では、プレートを中央で反転させ、エントランスホールやライブラリーなど外部に直接つながる白い空間と、レストランや浴室など居住者のためのプライベートな黒い空間を、プレートの両側に展開する対の空間として配置した。東側の共用スペースは街路的性格を持っている。日常生活のための基本的な機能が、広がりのある廊下、階段、スロープなどでつながれ、回遊性を持つ連続した空間となっている。ここには機能が限定されていない場が随所にあり、居住者は内部を自由に歩き回りながら、気に入った場所で気のあった友人と時を過ごすことができる。また、共用スペースと個室群を、ガラスと扉で仕切り、両者を視覚的、感覚的に分離せず、寮全体としての一体感、居住者相互の気配が感じられるようにした。共用スペースのいたるところからは、プレートのエッジによって切り取られた立山連峰の美しい山並みを眺めることができる。階段状になった屋上テラスは、内部空間と連続しながら上方に広がる黒部の大きな空に向かって開いている。

仕上材料については、厳しい予算と工期の許す範囲内で、できるだけ材質感、触感のはっきりしたものを選択した。材料のもっている質感が、ダイナミックに変化するこの地の光や空気などの自然と呼応することによって、プレート上に展開する空間に季節や1日の時間の中で多様な表情がうまれることを意図した。


小澤丈夫、末廣香織、末廣宣子


©2003 TEO architects