|
風景の集合体
都市と自然の風景が共存する地方都市、宮崎県延岡市の中心街に建つ中規模ホテルの増築である。1階に駐車場、ピロティ、2階に厨房、レストラン、カフェ、3-6階に客室、7階に共用浴室、ラウンジ、ルーフテラスを設けている。階段、エレベーターなどのメインの竪動線は、隣接する既存建物を利用し、階高もそれに従っている。このような増築計画の大枠は、既存建物の構成、使われ方、クライアントの要望、予算などの諸条件を読み込む設計初期の段階において、論理的に導かれたものであり、設計の主な関心は、それらのありようを主題として問うことにあった。
延岡ホテルは50年程前に旅館としてスタートした後、数回にわたる増改築を経て現在に至っている。20年程前からは、ビジネスホテル部門を併せ持つようになり、現在はビジネスホテルと滞在客用旅館の複合体として運営されている。時代の流れの中で、徐々に旅館からホテルの姿にシフトしてきてはいるが、依然として旅館的な要素を持ったホテルであるところに、多くのステレオタイプ化された最近のホテルとは異なった特徴がある。
旅館的な特徴とホテル的な特徴とをクライアントとともに整理し、ホテルの向かうべき方向を見直す作業を進めながら、両者を改めて仕切り直し、対比を明確にすることによって、互いの特徴をより際立たせながら共存させるようなことができないかと考えた。ホテル的な要素の主役は、ユニットバス、デスク、通信設備などがコンパクトにまとめられた、静かに休むことができるクローズされたシェルターとしての客室である。一方、レストラン、共用浴室、眺めのよい屋上テラスなどは、多分に旅館的な感覚の延長で運営されているオープンな部分である。
そこで、既存建物の客室が配置されている3-6階をホテル=クローズされた個室シェルターの集合、2、7階を旅館=オープンな共用部分と考え、これらを明快に仕切る大きなスケールをもった一枚のプレートを全体を構成する手がかりとすることにした。床、壁、天井、屋根を連続させることで、大きなスケールをもったプレートが生まれる。プレートが、巻き込んだり、囲い込んだりすることによってつくられる様々な空間が、周囲と連続したり仕切られたりすることを特に意識しながら、さまざまな風景が建物の内外に展開することを意図して設計をすすめた。多くの地方都市の中心街がそうであるように、このエリアでは、大都市の過密空間とは異なり、空間的な密度と空きが混在している。ここでは、建物内部からの視線の抜けや風景、外部からの建物の見え方に、多様なバリエーションを見いだすことができる。そのような周囲の条件と積極的関わることで、建物の各部、特に共用部分に空間的な特徴をもたせたかったのである。
構造システムにおいても、3-6階部分を、柱型、梁型を内部に露出させずゆったりとクローズな内部空間が確保できるように、200mmサイズのボックス柱とH鋼梁と貫による籠状の鉄骨構造体とし、それを下部のオープンな共用部に露出するSRC造のV字状の柱で持ち上げることで対比をもたせた。7階では、鉄骨柱に耐火塗料を用いた上に窓枠と一体化させ、プレートによる仕切りが強く意識できるようにした。
私が関心をもっていたのは、ホテルにひとつの統合的な全体イメージをあたえることよりも、シンプルな全体構成をもちながらも、各々の構成要素がもつ異なった特徴を際立たせることである。ランドスケープ、シティスケープ、建築、インテリアを横断するようなスケールをもった様々な風景の集合体として、このホテルを成立させることを意図したのである。
|
|